2010年4月20日火曜日

三つ葉四つ葉

四つ葉は幸せを呼ぶ、という。そういえば昔、小学生の頃、通学路にクローバー畑があった。いずれ幹線道路になる空き地で、だからだだっぴろい空き地で。そこが一面、クローバー畑だった。
学校帰り、私たちはよくそのクローバー畑に立ち寄った。私はシロツメクサの花を集めては、花冠を作ることが好きだった。友達の分全部作り、その後弟の分も作って、そうして時間を過ごした。
友達が一緒のときもあった。ひとりのときもあった。
或る日、友達が、必死になってランドセルを背負ったまま、クローバー畑にはいつくばっている姿を見つけた。どうしたのだろう。そう思って近づくと、彼女は全く気がつかない。それほど必死に何かを探していた。
声を掛けると、びっくりした顔の友人が私を見つめる。しばしの沈黙が走り、その後、彼女が言った。四つ葉を探してるの。
ふぅん、と思って私もそれに加わる。友人はただひたすら、私など居ても居なくても変わらないらしく、まさに必死に四つ葉を探している。
四つ葉、見つけたらどうするの? 私がふと尋ねた言葉に、友人の手が止まった。ねぇ、さをりちゃんが四つ葉見つけたら、私にくれる?
彼女の目は必死だった。あまりに必死で、私はちょっと慄いたのを覚えている。ねぇ、だから、四つ葉、どうするの? 私は尋ねた。
友達が死んじゃうの。え? 病気なの。…。私、その病気、治って欲しいの。でもこのままだと死んじゃうの。だから四つ葉を探してるの。
もう涙が出そうな目を、それでも必死に動かして、友人は四つ葉を探している。私はその友人に圧倒された。だから、私も、黙々と四つ葉探しに加わった。

夕方になる頃、ようやく私たちは四つ葉を見つけた。どちらが見つけたんだか、はっきりは覚えていない。でも二人して、やったー!と声を上げたことは、はっきり覚えている。友達はそれをきれいな洗い立てのハンカチに包んで、大事そうに持って帰った。

四つ葉はちゃんと、病気の友達のもとへ届いたはずだった。でも。
友人の願いは、叶わなかった。病気の友達は、ほどなく死んでしまった。
あれ以来、私は、四つ葉の神話を信じなくなった。

でも今、娘が、四つ葉を探している。願い事をするんだ、と、必死に四つ葉を探している。私にも手伝って欲しいと彼女が言う。だから私は、一緒に探しながら、娘の様子をうかがっている。
あったぁ! 娘が叫ぶようにして立ち上がる。大地を飛び跳ねて喜んでいる。私はただそれを見つめている。よかったねぇ。うん、よかった!
娘の願い事が何なのか、私は知らない。でも、叶うといい。そう、思う。