2010年6月20日日曜日

砕ける波

海が好きだ。振り返ってみて、一体いつから自分が海を愛し始めたのか、その始まりさえ分からないほど、昔から海が好きだ。
眺めているのも好きだし、中に入ってじゃぶじゃぶやっているのも好きだし。ただ潜って目を開けて、辺りをじっと眺めているのも好きだし。でも何より、海の何処が好きかといわれれば、それは、波が砕ける、その様だと思う。

学生の頃、毎日海辺に通っていた時期があった。家になかなか帰れなかった時期である。片道二時間強、どのルートを通っても、どこかしらに海が在った。だから私はおのずと、海に導かれるようにしてそこへ行った。そうして時を過ごした。
別に何をするわけでもない。ただ岩場に座り込んで、ひたすらに波を眺めている。大きく砕けるときもあれば、小さくさざなみだつだけのこともある。ひとつとして同じ波はなく。それが私には、たまらなく魅力的だった。

日が落ちる頃、金色の道が海に生まれる。その道がきれいになくなるまで、ただ眺めていた。道がなくなると、一気に闇が訪れて。海は水平線を闇に溶かし込み、私を呑みこまんばかりの勢いで深く濃くなるのだった。

波の音を聴きながら、私はその日あった出来事を辿っていた。いやなこと、よかったこと、いろんなこと、そうして辿って、下を向いた。あの頃は、毎日が重かった。できれば今すぐにでも、すべてを捨て去りたかった。逃げて何処かへ行ってしまいたかった。二度目の高校に通い始めた頃のことである。
何処にも居場所がなくて、だから私はただ、彷徨っていた。そして、この海の向こうになら、きっとひとつくらい、これっぽっちくらい、私の居場所があるはずだ、なんて、勝手に思っていた。砕け散る波を見ながら、いつか、いつか必ず自分の居場所を見つけてやる、と、いつもそう、思っていた。

今、目の前で砕ける波を眺めながら、私は思う。
居場所は見つけるものじゃなくて、育むものなんだ、と。