2010年7月11日日曜日

「唯一の地図」

昨日 外国のとある街は何十年振りかの大洪水に見舞われ
何千何百の人々が うねり狂う泥水に
慄き震えながら夜を明かした
今日 僕らが立つこの街はあざやかに晴れ渡り、
空をゆく風に乗って 眩しげに雲が流れる

昨日届いた君からの手紙は
元気です うまくやっているよ
そう書いてあった
今日久しぶりに会った君は
笑い合う声ももたず、瞳は黒ずんだ隈の奥深く
沈んでいる

あぁ、今
見上げる空はこんなにも
蒼い

この星の上 砂粒のようなちっぽけさでもって
産まれ堕ちた僕は君は
幾重にも絡まり合った
琴線の上 綱渡りするように
こうして生きてる

昨日今日明日
人の名付けた時間は
明日今日昨日
巡り続け、
この場所はあの街へ
あの空はこの空へ続いている
今日の君は 明日の
僕 かもしれない

溢れ返る世界
目を閉じても
耳をふさいでも
雪崩れ込んでくる次々に
君が本当に探している音も
君が本当に求めているモノも
奪い取るかのように
世界は溢れ、

今見上げるこの空はこんなにも
蒼いのに
一瞬にして墜落した色彩は
今君の、僕の、足元に
屍となり横たわる

そんな世界に 産まれ堕ちた君は僕は
この手で一体何を
掴めるというんだろう

目を閉じても
耳をふさいでも
君を僕をひねり潰すかのようにこの世界は
言葉で溢れ
モノで溢れ
もういつ なけなしに作られた堤防を
豪波が越えてきてもおかしくはない
そして今繋いでいるこの手と君の手を
引き千切ってゆくんだ

その時

僕は君を 見つけられるだろうか
荒れ狂う波の狭間に揺れる君を
その時
君は僕を 探し出せるだろうか
吹き荒ぶ風の狭間に揺れる僕を

伸ばした手は虚しく 宙を切るだけかもしれない
呼びかける声は虚しく 波音にかき消されるだけかもしれない

それでも

君はいた 僕のこの掌の中 残る
微かな温みが その証だ
そして僕は探し続ける、温みを頼りに
呼び続ける 君の名前を
そして

見つけ出すよ 僕らをきっと
そうさ、

舫綱は千切れても
君の居場所は分かる
この目が潰れても
今結んでいるこの手が
触れたこの感触が地図になる
何処に迷い込もうと何があろうと

この手の ぬくみが
君と僕の 目印になる

唯一の 地図 に なる