2010年8月14日土曜日

虚影(8)



もはや諦めるしか術はない、と、瓦礫の街に崩れ落ちる。
もはや諦めるしか。
そう呟くのに、
同時に、喉が焼けるように痛むのだ。
それでも、それでも、と。

それでも私たちは生きたかった。当たり前に生きたかった。ごくごくふつうに生きていたかった。こんなことが自分の身の上に起き得るなんてこれっぽっちも思ってもみない頃に戻って、ふつうに笑ってふつうに泣いて、そうして生きていたかった。

私たちが願うのは、たったそれだけのことなのに。

遠い。遠すぎる。あまりにも遠すぎる。
あぁ。

それでも私たちはやっぱり、起き上がるのだ。倒れ伏した瓦礫の山から、やはり今日も起き上がって、立ち上がって、足を引きずりながらも歩き出すのだ。
それでも、それでも、と、自分の内奥から湧き出てくる声に圧されるようにして。とぼとぼと歩き続けるのだ。

この先に何が待っているのか。
誰も知らない。
でも私たちは今なお生きている。
生き延びてしまった。
だから生きる。
それでも、と、この手の中に残る粉々の緒の先に、世界が繋がっているかもしれないことをせめて信じて。それでも、と、歩き続ける。