2010年9月4日土曜日

緑破片(9)

彼女の声が出なくなる時。
何について何に対して悲しんでいるのか怒っているのかもうわからなくなってしまうことがある、そういうときに、たいてい声が失われる。
ようやく声を出して、辛いよと声を出して言ってみたのに、
「そんな昔のことを言われても困る」と放られると、たいてい彼女は声を失う。
もう、伝えてもだめなんだ、いくら伝えようとだめなんだ、という思いが、
彼女の声帯を潰してしまう。

私は間違っているんだろうか。
あのままDVを受け続けていればよかったんだろうか。
死ねばよかったんだろうか。

もう言葉などでは追いつかなくなるほどぐるぐると思考が回り始めると、彼女の身体は外への回路をぱたんと閉じる。

声が出なくてやだなと思うこともあるけど、
声が出ないことで救われる部分もある、と彼女は笑う。
声が出ないから伝わらないのが当たり前だよね、と
最初から諦めることができるから、と。

言葉とか、爆発しそうな感情を、そのまま爆発させてしまったら、周りに責められる。だから彼女は自分を責める。責めて責めて、責めて責めて、また自分を傷つける。