2010年9月22日水曜日

海と雨と風と砂と、

その日、天気は酷く不安定で。ぱらぱらと雨が降ったり止んだりしていた。そんな中、私は砂丘に立っていた。
何故だろう。海が呼んでいる。そう思った。

私はまだ、泳げない頃から、海に憧れていた。いつか自分は海に還るんだ、と、まだその意味も何も知らない頃から、そう思っていた。
死んだら私は海に還る。死ぬときは海で。そう信じきっていた。
そんなこと、現実には無理だと知らぬ頃、そう信じて信じてやまなかった。

あの日、荒れる海に構わず、私は呼ばれるまま、海に入っていった。別に死ぬとかそういうつもりは全くなく、ただ、呼ばれるまま、そのままに。入っていった。
もう胸までぐっしょり濡れて、長く伸ばした髪も濡れ、ふと振り返ると、砂浜はもうだいぶ遠くて。
その時、はっとした。あぁ私はもうこんなところまで歩いてきてしまったのか、と。

犯罪被害者となって、PTSDを抱え込んで、もう何年。数えるのさえ面倒くさくなる。
それでも私は、ここまで生きてきたのか、と。こんなところまで生きてきてしまったのか、と、或る意味愕然とした。
こんなに生きるつもりは、全くなかった。そんな中でそれでも、私は生きてきてしまった。まるでこの今私が立つ場所と砂浜との、この明確な距離のように、それは歴然としてそこに在った。

あぁそうか、私はもう、生きるしかないのだ。ここまで来たからには、私はもう生きるしか術はない。漠然とそう思った。

帰り道は、来る道よりも険しく。波に押し戻されながら何度も足を取られながら、ようやく浜に辿り着いた。
多分。生きることは、死ぬことよりしんどいんだろう。それでも。
私は、生きていくんだろう。ここからこうして。

様々な荷物を、背負って、それでも。