2010年10月3日日曜日

泣く

人は泣くとき、どんなふうにして泣くものなんだろう。
ひとり部屋にこもって泣く。
誰かのそばで泣く。
風呂の中、声を上げて泣く。
いろいろな場面が思い浮かぶけれど。
その日、彼女は声を上げずに、泣いていた。

石塀に寄りかかり、冬のあたたかな陽射しを浴びながら、彼女は立っていた。
何があったとか、そんな話、私たちはしない。
ただ、カメラを挟んで向こうとこちら、好きなように佇む。
ただそれだけ。

それだけだからこそ、逆に、伝わってくるものが、ある。
余計な言葉、誤解を生む言葉がそこに挟まっていないからこそ、伝わってくるものが、ある。

まるで彼女は、石の壁に、溶け込みそうなほど、しんと佇んでいた。
そして何処かをじっと、見つめていた。
私はそんな彼女をじっと、少し離れた場所から見つめていた。

彼女は涙も流さず、ただじっと、そこに立ち、泣いていた。

声をあげ、泣き叫ぶことのできた、幼い頃。
そうして今、私たちはもう、それなりにいい年齢に達している。
そんな私たちには、もう、声を上げて泣くことは、なかなかできない。
それでも泣くしかないとき。
人はこんなふうに、泣くのかもしれない。
じっと、佇んで、声を呑み込み、唇噛み締め、ただ、心で泣く。

私たちはいつのまにか、そうやってオトナというものに、なっていた。