2010年10月18日月曜日

足痕

その日、その浜辺には私と娘の他に誰もいなくて。
私たちは思う存分、浜辺で遊んだ。

ふと振り返ると、自分がついさっき歩いてきたばかりの足跡が、一列に並んで残っていた。こんなにきれいに足跡だけ残るのも珍しい。私はしばし、呆けてその足跡を眺めていた。足跡、いや、違う、足痕だ。これは。

呆けている私に気づいて、娘が私の後ろにやってくる。
ママ、すごい、足跡きれいに残ってる。
そうだね、ママの足痕だけが残ってるね。
これ、きっと、明日の朝まで残ってるよ。
そうかな、ママは、消えちゃうと思うけど。
いや、消えない。ママの足跡だもん、消えない!

私の脳裏には、一瞬にして、これまでの全てが走馬灯のように渦巻いた。
父や母からの精神的虐待、居場所のなさ、事件に遭ってからの途方もない闇の道。そして、この子を産んでからの、がむしゃらな道。
すべて、私だった。

この足痕のあちこちで、いろんな人たちと交叉してきたのだな、と、今改めて思う。
そうして離れていった人、もう二度と会うことのない人、そういった人々もいる。
同時に、つかず離れず、付き合い続けている仲間たちも、いる。

あぁそうか、私を引き受けるということは、私はこの足痕すべてを受け容れるってことなんだな、と、漠然と思った。
できるんだろうか、そんなこと。
まだ、私にはとうていそれはできそうにない。
でも。

死ぬ前に、それができたら。
それができたら、私は、きれいさっぱり死ねるな、とも思う。