2010年10月22日金曜日

足の裏

その時、私は彼女に、何も言わなかった。彼女が動くまま、動きたいと思えるままに、放っておいた。
裸足で駆け回っていた彼女が、突如、ぽてっと土の上に倒れた。倒れたというか、彼女自ら、倒れ込んだ。

それはまるで、土の感触を楽しんでいるかのようで。私はしばらく、そうしている彼女の様子を見つめていた。
そして背後に回って。
気づいた。
彼女の足の裏。疲れ果てた足の裏。

手も人の年輪を語るが、足の裏というのも、実によく、人の歩いてきた道筋を語ってくれる代物だと私は思っている。まさにその足が歩いてきたのだもの、語ることは尽きないだろう。
私はファインダー越し、彼女の足の裏をじっと見つめた。私の胸の中、切なさがふつふつと沸いてきた。悲しさがぷつぷつと音を立てて沸いてきた。でも。
何も言わず、その代わりに、シャッターを切った。

彼女は一体これから何処へ行こうとしているのだろう。

彼女は撮影中、何度も涙を流した。私はその涙のワケを、一度も訊かなかった。だから、本当の意味を私は知らない。
ただ、あの時彼女は間違いなく、自分がこうして生きているということを、実感していたはずだ。死にたい死にたいと夜毎言いながら、それでも彼女は同時に、生きたいとも叫んでいた。でも、どうやって生きていけばいいのか分からなくて、だから、足掻いていた。
彼女が私の家を出て行ってから、どうしているのか、私は知らない。
何処かで自分の足で、しかと立っていてくれることを、祈ってやまない。
そしてできることなら、カメラを持って、肩を怒らせて、街を闊歩していることを。
ただ、祈る。