2010年10月23日土曜日

ただ、空

それはH県からAちゃんが、突然、私の写真を撮ってください、とやってきた時のことだった。あまりに突然の彼女の頼みに、私は唖然とし、呆然とし、一体何故よりによって私に?と思った。でも、断る理由は、何処にもなかった。

Aちゃんと撮り始めたのは午前中早い時間。そして気づくと、太陽は真上に上っており。その頃まだ空き地の多かった埋立地。陽光を遮るものは殆どなく、私たちは燦々と降り注ぐ陽光に、薄く汗をかくほどだった。まだ寒い、冬の終わり。

見上げると、空にはこれでもかというほど激しく怒った雲が浮かんでおり。その勢いはまるで、今朝やってきたAちゃんの、最初に私に向かってきたときの勢いを現わしているかのようで。私はしばし、その空と雲とを見上げた。

すごいね。
うん、すごいですね。
激しくて、でも、きれいだね。
はい、眩しくて、目を開けてるのが大変なくらい。

さっき勢いよく走ったばかりのAちゃんは、肩で息をしながら、そんなふうに応えた。そして二人並んで、空を見上げていた。

どんな状況の中でも、足掻いていたいよね。
あぁ、それはいえます。このままではいたくない。だからここに来ました。
そっか。そうだよね。

彼女は重い荷物を背負っていた。心に重い重い荷物を。それでも生きたいから、何とかしたいから、思い余って彼女はここに飛んできた。

今空は、雲は、そんな私たちを見下ろしながら、まるでこう言っているかのようだった。
足掻けよ、思い切り足掻けよ、そうして何処までも生き延びていけよ。
そう、何処までも。死が自ずとやってくる、その時、まで。