2010年11月11日木曜日

暗闇の花

その年、私はアネモネを育てた。儚さを全身に纏った花で、どこまでもどこまでも微かだった。
その花も、もう終わりの頃、ふと思いついて、カメラを持ち出した。

このかそけき花を、何処まで写真にできるだろう。
そう思いながら、カメラを構えるのだが、全然シャッターが切れない。
困った。

アネモネは、私の感じるイメージだと、光の花だ。溢れる光の中、微かな風に揺れながら咲く、そういう花に思える。
でも。
そのままじゃ撮れない。私には、撮れない。そう思った。

そのまま真夜中になり。どうしてもアネモネが気になって、私は寝床から起き出した。その時、私は初めて、真夜中の、闇の中のアネモネを見た。

闇の中、彼らはふわぁっと浮かび上がるようにして咲いており。それは、妖しく。昼間の姿とは全く異なる姿を晒していた。
この花は、こんな姿も持ち合わせていたのか、と、私は初めて知った。

そうしてシャッターを切った。

あれ以来、アネモネは育てていない。一年で終わってしまう花は、どうしても育てるのに躊躇する。だから今私のプランターにあるのは、薔薇の他にはムスカリ、イフェイオン、スノードロップといった、放っておいても次の年また芽を出す者たちばかりだ。

そうして改めて思い出す。アネモネの、あの、真夜中の姿を。
それはまるで、夜の女王のようで。儚さの向こうにしぶとさを秘めているかのようで。妖しく輝いていた。

いつかまた会うときがきたら。
その時もきっと私は、夜のアネモネを撮るのだと、思う。