2010年11月17日水曜日

海と空と、

そこにはただ、海と空があった。
まだ世界が白黒でしか見えなかった時期、私にはそれはまるで、渾然一体となった空と海だった。
それはどこまでもどこまでも広がっており、視界全て、海と空とで。

そこを一隻の舟が、ゆっくり、ゆっくりと横切ってゆく。
乗っているのは二人ほどか。

その舟の存在によって、私は海と空との境を知る。あぁあそこがちょうど、境目なのだ、と。

白黒の世界の住人に、一度でもなったことがある人なら、分かるだろう。
色によって作られる境界が、白黒では曖昧になるのだ。だから、何処までも何処までもモノクロが続いていくようにさえ見えることがある。
それは本当に曖昧で。だから、不安に、なる。

目の前に広がる海と空と、そして一隻の舟と。
私の目の中ではそれは果てしなくモノクロで。
隣に立つ娘の目の中でそれは果てしなくカラーでもって。
こんなに近くに立って、手を繋いでいる者同士なのに、見える世界がこんなにも違っていて。

だから思うのだ。
どんなに似通った体験を経ても、感じることは人それぞれ。思うことは人それぞれ。
決して同じであるわけがない。
だから私たちは言葉を持ったのだ。きっと。
違いを知るために。

言葉の使い方を一歩間違えれば、それは刃になる。
だからこそ、大事に使いたいと思う。
あなたと、わたしと、その違いを知って、互いに受け容れるためにこそ。
言葉を用いたいと、そう思う。