2010年11月29日月曜日

掠れた紫陽花

紫陽花の花というのは不思議な花で。花びらが散り落ちることがまずない。
じゃぁ椿のようにぽてっと花が丸ごと落ちるのかと思えば、それもない。
季節を越えて、花はドライフラワーのようになって枝にくっついている。

夏も終わりの頃、川沿いの道に紫陽花が群れをなしていた。花はもう時期が終わり、すっかり荒廃していた。撒き散らされる排気ガスをたっぷり浴びて、花の色はもうほとんど失われ、汚れに汚れた姿でそこに在った。

手を伸ばそうと伸ばしかけて、私はふいに手を引っ込めた。
触ってはならない、そんな雰囲気が、花には在った。
もう花の時期はとうの昔に終わって、いってみれば枯れた花だというのに、それでもその存在感は大きかった。私はまだ終わりじゃぁない、と、まるで厳然とこちらに申し立てているかのように見えた。

もとはピンク色の、かわいらしい花だったのだろう。その片鱗が花びらの片隅に残っている。でも今はもう、すっかり汚れた、荒れた姿、だというのに。
花は主張していた。私はまだ終わっていない。終わっちゃいない。触れてくれるな、と。

どのくらいそうやって、花と対峙していただろう。私は持っていたカメラを構え、花を切り取った。
後日、プリントしながら、思った。
これが彼らの品格なのだ、と。
どんな姿になろうと、自分は花だという品を失わない、その姿勢が、何処までも何処までも貫かれており。

こんなふうに私も立つことができたら。
思わずそう、思った。