2010年12月8日水曜日

横たわる瞳

まだ私が、モノクロの世界で生きていた頃。
横になることがとてつもなく難しかった。眠るために横になろうと思ってもそれができない。横になることが怖いのだ。無防備な体勢になるのが、とてつもなく怖い。

あの日、私は少なくとも、無防備ではなかったはずだった。それでも襲われた。足掻いても足掻いても、加害者の体はコンクリの壁のように重く、ずらすことさえできなかった。喉から声を出そうとしても、出る声は絞り出された滓かのような、しゃがれた声で、何処にも届きはしなかった。助けてくれるものなど、どこにもなかった。

あれ以来、横になる、という行為が私には難しい。

私の世界にも色彩が徐々に徐々に戻ってきて、光溢れる世界に戻ってきて。それでも。闇の中横たわる、それにはとてつもない抵抗感を覚える。
いや、もうここは安全な場所、ここは私の部屋、誰も入ってきやしない、守られた場所、自分に何度も何度もそう言い聞かせるのに、体は勝手に足掻く。

そうして知った。横になることの重要さ。体を休めることの大切さ。それがなければ、人は動き続けるなんて無理なんだってこと。

Mちゃんの瞳は時々からっぽになる。がらんどうになる。
この時もそうだった。からっぽのまま、かんっと見開かれ、横たわっていた。その時どきっとした。まるで、あの被害を受けた後の、自分の目を見ているかのような気がした。
きっとこんなふうに、空っぽだったに違いない。そう思えた。