2011年1月14日金曜日

木々の狭間で

道をさらにのぼってゆくと、木立がますます深みを増してゆく。
それまで手を繋いでいた娘が、私の手をぱっと離し、走り出す。
それは、まさに木立の窪みで。自然が作った、小さな部屋のようで。

私も彼女に習って近づこうとして、やめた。
「ここは子供だけの場所ですよ」。木がそう言っているかのように聴こえた。
それは空耳だったかもしれないけれど。でも確かにそう聴こえたのだ。

娘は、足元に生えている草花を、摘んでは香りを確かめている。
それは、娘ひとりきりの、大事な時間だった。
私は離れた場所で、彼女が戻るのを待つことにした。

目を閉じて耳を澄ますと、せせらぎの音が何処からか聴こえてくる。そんな場所だった。
木立はぽっかりと影を作り、その影が部屋となって、娘をそっと包み込んでいた。
空は青く青く青く澄み渡り、野鳥の声があたりを飛び交っていた。

一人遊びに満足したらしい娘は、いつの間にかにっと笑っている。
だから私もにっと笑い返す。
ここ、秘密基地になりそうだね。娘が言う。
私は無言で頷き返した。