2011年2月3日木曜日

見上げる先に

森には一本、こちらを呆然とさせるほどに大きな大きな樹があって。
私はその樹の名前を知らない。
知らないけれど、その存在は知っている。

森に行くたび、だから、その樹に会いに行く。
その樹の下には、いつの間にか誰が置いたのか、木製のベンチが横たわっており。そうだよな、誰でもここで一度は休みたくなる、と思わせる。

娘が尋ねてくる。
ママ、この樹、何歳?
うーん、分からない。ママも知らない。
すごいよね、こんなに太いんだよ、こんなに大きいし。
そうだね、三百年くらいは淡々と生きている樹なのかもしれないね。
すっごーい! 人間なんて豆粒じゃん!
ははは、そうかもしれない。

今、彼女が見上げる樹は、そんな私たちの会話に、何も言わず枝を風に揺らしている。
どれほどのものをここで彼は見つめてきたのだろう。
どれほどのものを彼はここで見つめ続けてきたのだろう。

できることなら。
私よりずっと長生きして、
そういえばこんな子がいたな、と、或る日思い出してくれたら、なんて思う。