2011年5月11日水曜日

陰影

かろうじて砂紋が刻まれた砂地に無残にも打ち込まれた楔が幾つ。連なって奥まで続いている。私は眼を細めてそれをじっと見やる。気づけば私の視界は、陰影のみの世界に変わる。

そう、モノクロ写真。
それを本屋で見つけた時、ああと叫び声を上げたかった。ここに在ったかと、そう言いたかった。私の今在る世界がここに在った。

すべてぶっつけ本番。解説書など読んでいる暇は私にはなかった。とにかくそれを自分で再現してみる、それしかなかった。だから突っ走った。
初めてプリントを焼き上げて迎えた朝、私は小さく泣いた。あぁ、これだ、とそう思った。私が昨日見た世界、私が昨日在た世界、それがこの小さな印画紙の上に、確かに刻まれていた。