2011年7月18日月曜日

幻霧景Ⅰ-04

 突然、少女が再び駆け出した。今度は自ら駆け出した。
長い髪が彼女の足を一歩進めるたびにひょんひょんと跳ねた。
微かな朝陽を受けてきらきら輝く黒髪には、天使の輪が産まれており。
じっと見つめていると、余計なものはすべて削ぎ落とされ、
私の目の中にはただただ、少女の掛けてゆく姿のみが写しだされる。

まるでスローモーションのようになって、少女は一歩また一歩、走り去ってゆく。
朝陽がまた一段高いところに上ってゆく。

ふと思う。道は人が作るのだ、と。私の前に道はなく、だから私自身が道を作ってゆくのだ、と。走ってやがて谷間に点のようになって消えてゆく少女の姿は、切ないほど純白だった。