2011年8月22日月曜日

幻霧景Ⅰ-13

少女が真っ先に靴をはいた。まだ幼い彼女はこの時、何を考えて何を思っていたのだろう。もしかしたら先ほど約束したアイスクリームのことなど考えていたのかもしれない。
夜明け前からの撮影、疲れたろうに、そんな顔はこれっぽっちも見せず、むしろ少女はうきうきと楽しげに見えた。

すっかり陽射しに掻き消された霧。まさに幻のようにそれは消え去った。
今ここにあるのは流れ往く風と陽射しと樹々と、それらの醸し出す心地よい匂い。
私たちは誰ともなく深く深呼吸していた。その匂いを胸いっぱいに吸い込んで。
見上げる空は、水色の水彩絵の具をざっと平筆で引いたみたいに美しかった。