2011年9月22日木曜日

あの日

あの日。私はもう倒れそうになりながら、それでもじっと、自分の順番が来るのを待ってた。
病院の待合室は満員で。私はそこに座っていることさえ苦痛で。だから待合室を飛び出し、非常口から階段へ滑り出た。そこには誰もいなくて。だから私はほっとして、ようやっと周りを見ることができた。
それは雨上がりの日で。来る道筋にも水たまりが幾つか在った。

ふっと、階段の手すりから身を乗り出してみれば。
あぁここから墜ちたら、私はいなくなることができるかもしれない、と。そう思った。八階の階段。死に切れるかどうかは分からなくても。とりあえずここから逃げることは、できる、と。そう思った。
その私の目に、飛び込んで来たのが、この光景だった。

あぁ、綺麗だ。そう思った。
私は階段を、震えながら一段一段下っていった。下って下って、ようやくその場所に辿り着くと。
そこには水たまりがひっそりと、横たわっていた。
気づいたら私は、持っていたカメラのシャッターを切っていた。

モノクロの世界の住人になって久しい私には、まさにこの写真のようにその場所は映った。あの時の私が、ここに在る。あの時この光景が眼に入らなかったら、私は思いっきりあの手すりを越えて、この場所に墜ちていたかもしれない。

写真はそうやって、私にあの一瞬を、越えさせた。