2011年10月18日火曜日

落書き

あの日実家の近くの公園で、娘と二人、何をするでもなく過ごしていた。
ふと目を離したすきに娘が棒を拾って来て何やら地面に描き始めた。

何描いてるの?
私が尋ねると、娘はにかっと笑った。
何描いてるの?
私はもう一度訊いてみる。
娘はやっぱり、にかっと笑うだけだった。

しばらくして、地面には大きな大きなぐねぐねした模様が描き出されており。私はそれをあっちこっちの角度から見て回って、ようやく納得した。
あぁ、裏山の葡萄の樹ね?
娘はやっぱり何も言わず、にかっと笑うのだった。

あの日、私にとってその場所はとても嫌な記憶があるばかりの公園で、娘と二人、何をするでもなく過ごしていた。
そんな時娘が描き出した幾何学模様。娘はただにかっと笑うだけで。
でも何だろう、私はほっとしたのだ。私にとってどうかは置いておいて、娘にとってこの場所は嫌な場所でも何でもなく、ただの小さな公園であったことに気づいて。

そう、記憶は何度でも塗り替えられる筈。娘に寄り添って娘の描いたぐにゃぐにゃ模様を眺めながら私は自分に言ってみる。
嫌な記憶でもきっといつか、おだやかな記憶に変えてみせる。