2011年11月2日水曜日

滑り台

その公園は丘の上にあって。
子供にとっては大きな大きな滑り台のある公園だった。それ以外にはブランコがあるだけの、素っ気ない公園で。
でもこの滑り台があることで、たくさんの子供が集った。

私は弟を連れてよくこの公園に遊びに行った。当時弟はとても気弱な子で、他の子にちょっと小突かれただけで泣きべそをかくような子だった。だから、弟がちょっと泣きべそをかくたび、仕返しをして彼を守るのが、私の役目だった。

或る日滑り台で遊んでいたときのこと、滑り台の天辺から弟が滑り出そうとした瞬間、その弟をどーんと突き飛ばした子がいた。弟はもちろん頭から滑り台を転げ落ちる。私が呆気に取られて口をポカンと開けている間にも弟は転げ落ちる。

瞬間、私の怒りが爆発し、相手が年長の男の子にも関わらず飛びかかった。もちろん結果は組み伏せられるだけの話だったのだが、私はあの時赦せなかったのだ。どうにも赦せなかった、大事な弟を突き飛ばすなんて、と。もうただそれだけだった。

弟はそんな私を、今度は彼が呆気に取られて砂場から見上げていた。お互いぼろぼろの姿になり、滑り台の脇、ぽつねんと取り残されて。

何となく、目が合って。二人とも何となく、笑った。一度笑いだしたら止まらなくなって、しばらくけらけらと二人で笑った。

手を繋いで帰ったあの日、どちらも親に何も言わず、黙々とご飯を食べたことを覚えている。

あの滑り台を今こうして見ると、それはとても小さくて。あの頃私たちが見上げていたような大きさは何処にもなくて。

でも、懐かしい。そう、今はこうして懐かしいと言える、それだけの時間が経った。私の上にも弟の上にも、誰の上にも。
そんな私たちを見守るように、滑り台は変わらず、ここに在る。