土の道が続いている。人の足によって草が踏みしだかれ、それが道となって、私たちのゆく手を照らす。
この辺りの道もずいぶん舗装されてきたが、この辺りはまだまだ、土の道だ。私たちは草履をつっかけながらぺたんぺたんと歩いてゆく。
道の両側から、道に覆いかぶさるかのように立つ樹木たち。下から見上げるとそれはまるで枝のアーチのようで。木漏れ日の中を私たちは歩いてゆく。
もう疲れた。そう言って娘がしゃがみこむ。
私は素知らぬふりをして、その辺の草をいじってみる。
ママ、何処まで行ったら森が終わるの?
さぁて、何処まで行ったら終わるんだろう?
なんかもう、飽きてきた。
そんな贅沢なこと言って。バチがあたるぞ。
なんで?
なんでって・・・普通こんなにたくさんの緑に囲まれたら、幸せだなぁって思うものだからだよ。
ふーん。でも私、飽きた。
ははは。まぁまぁ、ほら、ぺんぺん草があるよ。
何それ?
私はぺんぺん草のぺんぺんを、そっと一枚ずつ下ろしてゆく。そうして全部下ろし終えたものを、娘の耳元でくるくる回してやる。
ママ!今、ぺんぺんって鳴った!
そうだよ、だからぺんぺん草っていうんだよ。
へぇへぇぇ。おもしろいね。
娘はさっきまで飽きたと言っていたのをすっかり忘れたかのように、次々ぺんぺん草を拾い集め始めた。じじばばにも教えてやるんだと胸を張って。
2011年2月23日水曜日
2011年2月8日火曜日
樹よ
娘がベンチから降りて、私の隣に立つ。
そうして改めて樹を見上げている。
ママ、この樹、お化けかもしれない。
え?なんで?なんでお化け?
だって、こんなに大きいんだよ。
ははは。そうかぁ、お化けかぁ、でもママには、今もこの樹の鼓動が聴こえるようだよ。
ふわぁっと私たち二人の髪に触れて流れてゆく涼やかな風。同時に、大樹の枝葉も、ざわわわわと音を奏でる。
私たちはじっと樹の前に立って、その音を見つめる。
ママ、やっぱり、お化けは取り消すよ。
なんで?
だって、今の音、すごくやさしそうだったから。
うん、そうでしょう? この樹の奏でる音は、いつでもやさしい。
ママが生まれる頃にはもう在ったんだね。この樹。
うん、もっともっと昔から、ここにこうして在ったんだよ。
大樹は悠然と、あたりに溶け込んで、決して自ら目立とうとしない。
それでもここを通る人は誰もが気づくだろう。この大樹の存在に。
そして、ほっとさせられるのだ。
あぁ、この樹はなんて、やさしいのだろう、と。
そうして改めて樹を見上げている。
ママ、この樹、お化けかもしれない。
え?なんで?なんでお化け?
だって、こんなに大きいんだよ。
ははは。そうかぁ、お化けかぁ、でもママには、今もこの樹の鼓動が聴こえるようだよ。
ふわぁっと私たち二人の髪に触れて流れてゆく涼やかな風。同時に、大樹の枝葉も、ざわわわわと音を奏でる。
私たちはじっと樹の前に立って、その音を見つめる。
ママ、やっぱり、お化けは取り消すよ。
なんで?
だって、今の音、すごくやさしそうだったから。
うん、そうでしょう? この樹の奏でる音は、いつでもやさしい。
ママが生まれる頃にはもう在ったんだね。この樹。
うん、もっともっと昔から、ここにこうして在ったんだよ。
大樹は悠然と、あたりに溶け込んで、決して自ら目立とうとしない。
それでもここを通る人は誰もが気づくだろう。この大樹の存在に。
そして、ほっとさせられるのだ。
あぁ、この樹はなんて、やさしいのだろう、と。
2011年2月3日木曜日
見上げる先に
森には一本、こちらを呆然とさせるほどに大きな大きな樹があって。
私はその樹の名前を知らない。
知らないけれど、その存在は知っている。
森に行くたび、だから、その樹に会いに行く。
その樹の下には、いつの間にか誰が置いたのか、木製のベンチが横たわっており。そうだよな、誰でもここで一度は休みたくなる、と思わせる。
娘が尋ねてくる。
ママ、この樹、何歳?
うーん、分からない。ママも知らない。
すごいよね、こんなに太いんだよ、こんなに大きいし。
そうだね、三百年くらいは淡々と生きている樹なのかもしれないね。
すっごーい! 人間なんて豆粒じゃん!
ははは、そうかもしれない。
今、彼女が見上げる樹は、そんな私たちの会話に、何も言わず枝を風に揺らしている。
どれほどのものをここで彼は見つめてきたのだろう。
どれほどのものを彼はここで見つめ続けてきたのだろう。
できることなら。
私よりずっと長生きして、
そういえばこんな子がいたな、と、或る日思い出してくれたら、なんて思う。
私はその樹の名前を知らない。
知らないけれど、その存在は知っている。
森に行くたび、だから、その樹に会いに行く。
その樹の下には、いつの間にか誰が置いたのか、木製のベンチが横たわっており。そうだよな、誰でもここで一度は休みたくなる、と思わせる。
娘が尋ねてくる。
ママ、この樹、何歳?
うーん、分からない。ママも知らない。
すごいよね、こんなに太いんだよ、こんなに大きいし。
そうだね、三百年くらいは淡々と生きている樹なのかもしれないね。
すっごーい! 人間なんて豆粒じゃん!
ははは、そうかもしれない。
今、彼女が見上げる樹は、そんな私たちの会話に、何も言わず枝を風に揺らしている。
どれほどのものをここで彼は見つめてきたのだろう。
どれほどのものを彼はここで見つめ続けてきたのだろう。
できることなら。
私よりずっと長生きして、
そういえばこんな子がいたな、と、或る日思い出してくれたら、なんて思う。
登録:
投稿 (Atom)