2013年9月25日水曜日

写真展のお知らせ




今年も写真展開催します。
場所は、例年通り、東京都国立市にある書簡集です。

「鳥翔景」(人物写真)2013.10.27~11.22
 

「憶懐景」(心象風景写真)2013.11.23~12.30
 

会場は珈琲店です。おいしい珈琲やケーキと一緒に作品を眺めてしばしの時間を楽しんでいただけたら、とてもとても嬉しいです。
DMご郵送ご希望の方は、お知らせいただければ、嬉々として郵送させていただきます。
お気軽にお申し付けください。

なお、会場にて、限定部数の小冊子を今年販売予定でいます。
詳細は、もう少し期日が近づいたら、ということで。
しばしお待ちください。

どうぞよろしくお願いいたします!
 
 

2013年9月23日月曜日

彼女の肖像vol.3~顔のない女 12






彼女が言う。
「ね、だからね、約束だよ。私は五年後も十年後も生きるから、だから、おばあちゃんになったら、ふたりで縁側で並んで、お茶飲むんだよ」

だから私も応える。
「はいはい。分かってるって。嫌でもそうなるよ。のんべんだらりーと、日がな一日、縁側で過ごすんでしょ、はいはい」

日がもうだいぶ高みに昇った。さぁ、今日はもう帰ろう。私たちは帰り支度を始める。強烈な日差しが彼女の体力を全て奪ってしまう前に、私たちは屋根の在る場所へと。

振り返れば、眩いほどの陽光。涙が滲みそうだ。

2013年9月21日土曜日

彼女の肖像vol.3~顔のない女 11


失ったものを数え上げたらきりがない。諦めなきゃならなかったものを数え出したらきりがない。
だから私たちは、いつでも、あの日の後、得られたものに感謝する。それらをこそ、数える。眠る前、しんどい時、辛い時、悲しい時、そうした時に私たちは、あの日があるから今の私があるんだ、と、敢えてそう、感謝する。
それが、私たちの、次に進むための「バネ」になる。

あれから一年、今、彼女の体には、あちこちに腫瘍が顕れ始めている。近々彼女は手術の予定が入っている。幾つもできた腫瘍の幾つかを切除する手術だ。そのなかには、神経に絡み付いていて切除が難しいだろうといわれているものも、ある。
線維筋痛症の症状はどんどん悪化するばかりで、最近では痛みの発作に一日中襲われていることも少なくない。
だからこそ。
私たちはやっぱりここに帰ってくる。
「ふたりおばあちゃんになったら縁側でお茶飲もうね」
という口癖。そこに、戻る。

2013年9月18日水曜日

彼女の肖像vol.3~顔のない女 10


「私、いろんなもの失ってるよなあ。友達もいっぱい失った。ものを失うより、ひとを失うことの方が辛いね」
「そりゃそうだ。私も、これでもかってほどひとを失った。ものなんてさ、替えがきくけど、ひとは替えがきかない。唯一無二だから。それが、辛い」
「そうなんだよね。失いたくなかった、昔親友と思ってたひとを、失って。あぁ、私、何もなくなっちゃうのかなぁって、そう思ったらさ、なんかもう、空っぽに…」
「でもね、親友と心友の違いを教えてくれたのも、同じあの、被害体験、なんだよね。違う?」
「…そうなんだよねぇ。それはほんと、そうなの。だから、今は、思ってるんだ。心友ができてよかったな、って。あの頃の私じゃぁ得られないものを、あの体験をしたからこそ得ることができた、って。そう思う」
「うん。そうだよ」

2013年9月16日月曜日

彼女の肖像vol.3~顔のない女 09


時折思う。
いっそふたりで肩を抱き合ってさめざめと泣けたらと。そう思わないわけじゃなかった。でも。泣いたって何したって、私たちの時間は巻き戻すことはできない。あの日はなかったことにはならない。あのときの傷はどうあっても、消えてはくれない。
だったら。
できることは、何か。
次に、目をむけ、進むこと、だ。

2013年9月14日土曜日

彼女の肖像vol.3~顔のない女 08


「あのことさえなければ、私は今もあの場所で、飛び回ってたのかなぁ、って…」

だから私は、わざと畳み掛けるように言ってのける。

「無理だよ。体力の限界がきて、きっと終わりは来てた。あの事件がなくても、終わりは必ず来てた」
「分かってる、体力の限界は間違いなくいずれ来ただろうって思う。でも、でもね、その日ぎりぎりまで、私は頑張っていたかったの」
「そんなこと言ったってさ、もうどうしようもないじゃん」
「ん、そうなんだよね。どうしようもないんだよね」
「何度言ってみたって思ってみたって、取り戻せるわけもないんだもん。言うだけ思うだけ無駄だよ。やめよう」
「ん、分かってる」

2013年9月12日木曜日

彼女の肖像vol.3~顔のない女 07


「時々ね、今でも思っちゃうの。あんな事件さえなければ、って…」

彼女が突如そう言う。
あぁ、私もその言葉を、一体何度繰り返したことだろう。あの事件さえなければ。性犯罪被害にさえ遭わなければ。
私たちは、被害に遭う前、共に、いわゆるキャリアウーマンだった。男ばかりの会社で、試されるように次々仕事をこなしていた。それは私たちを形作る上での、大きな大きな要素であり、譲れない部分でもあった。私たちは働く場所は違えど、共にそうやって、戦っていた。
でも。
あの日を境に、それは崩壊した。音を立てて崩れ落ちた。がらがら、と。
そして残ったのは。
もう二度と同じ仕事に戻ることができない、そんな、病に振り回されるばかりの自分だった。

2013年9月10日火曜日

彼女の肖像vol.3~顔のない女 06


私は話を変えたくて、敢えて訊いてみる。

「お母さんの具合はどう?」
「ん、よくない。全然食べてくれないの、食事」
「あなたに「食べてくれない」って言われるっていうのは相当だぁね、そりゃ」
「ん、どんどん痩せてっちゃう。それに身体が痛い痛いって毎日言ってる」
「でもそれはあなたも同じでしょう?」
「ん、同じ。だからお母さんに、身体揉んでって言われても揉んであげることが殆どできない。それでも、揉んでって言うの。だから辛い」
「そんなん、無理なものは無理だもん、しょうがない」
「ん、分かってる…」

一体幾つのことを、受け容れ、認めて、それを重ねたら終わりが来てくれるのだろう。一体幾つのことを失い、諦めたら、終わりが来るのだろう。
きっとそれは、死ぬその日まで、続くんだ。どうあっても、誰であっても。

2013年9月7日土曜日

彼女の肖像vol.3~顔のない女 05


「目もね、だいぶ見えなくなってるの。もう片目は殆ど見えてない。体調が悪いときなんてほんと、何にも見えない」

私はそれにも、やはり頷く。そして黙って心の中、怒っている。怒る以外のどんな感情が生まれるというのか。心の中、ただ、私は黙して怒っていた。どうして彼女にばかりこんなことが襲い掛かるのか、と。カナシイとかツライとか、そんなもの、もうとうの昔に通り越していた。

2013年9月4日水曜日

彼女の肖像vol.3~顔のない女 04


「これでも一生懸命歩いてるんだけど。だめだよね、どんどん歩けなくなっていく」

彼女の言葉が今改めて思い出される。どんなに強気で「私は生きる」と繰り返す彼女でも、容赦なく次々襲い掛かる身体の異常を、受け容れないでは次にいけなかった。だから私はそんなときいつも、ふんふん、と頷いた。そして時折、「しっかり歩くんだよ、毎日」と発破をかけた。

2013年9月2日月曜日

彼女の肖像vol.3~顔のない女 03


この日、これでもかというほど陽射しが強く、辺りに照り付けていた。そんな早朝から焼けつくような陽光のもと、私たちは撮影を始めた。
思うように歩けなくなった彼女をどう撮るか。私は杖をついていても全く問題ないと思ったが、彼女は、そういう不自由な姿をできるなら晒したくない、どこまでも元気な自分を、できうる限り残しておきたい、そう考えていた。だから、場所場所の間を私の自転車の後ろに彼女を乗せて移動し、必要最低限の歩行距離で済むよう、配慮した。