2014年1月18日土曜日

お絵描き


娘は。
お絵描きの好きな子だった。彼女がひとりで遊んでいるときはたいがい、スケッチブックが友達だった。クレヨン、絵の具、サインペン、描き出すと黙々と作業していた。

彼女の絵はいつだって、誰かとふたりの絵だった。
尋ねたら、
ひとりは寂しいから。私はいつもママといるから。
という返事がいつだったか返ってきたことがある。
そうか、彼女の中にはお父さんという項目はないのか、と
少し寂しくなったことを覚えている。

でも。
それは当然なのだ。二、三歳で離婚し、物心ついたときには私とふたりきり、
二人三脚で歩いてきた彼女と私。
お父さんなんていう項目ははるかかなたの夢の物語だった。

私たちはよく、近所の公園にお絵描きにいった。
お絵描きといっても砂の上に絵を描くといったものなのだが、
つまり、スケッチブックだけでは足りなくて、地面に大きく描こう、ということで。
彼女は、描いていいよ、と私が声をかけると、もうその後は一心不乱、
夢中になってひとりで描き続けるのだった。

もちろん絵はその日のうちに、下手すれば描いているそばからなくなってゆく。
それでも私たちはかまわなかった。
描くという行為が楽しいのであって、描いたものを残して評価してもらう、なんてことは考えてもいなかったから。
だから毎日が、お絵描き日和で、ただただ楽しかった。

彼女があの日突然言った。
ママ、いなくならないでね。

地面には大きな大きな、ママの絵が描いてあった。