2014年8月26日火曜日

囚われてゆく


真冬の或る夜、電話のベルがけたたましく鳴った。
何となく嫌な予感がして出るのを躊躇った。
でも鳴り続けている。

出ると、彼女の親御だった。
はじめまして、と挨拶もそこそこに、お母様がまくしたてる言葉を
私はぼんやり、ああやっぱりなと思いながら聞いた。

彼女はリストカットをしたのだ。リストカットをして、それまで溜め込んだ薬をがぶ飲みした。
しばらく誰にも発見されず、でも前から彼女の様子を気にしていた大家の通報で救急車が呼ばれ、
その搬送先から、彼女の親御さんに連絡が行った。

当然と言えば当然の運びだ。
でも。
当然であればあるほど、私の内のエネルギーが
しゅるしゅるると萎んでゆくのを、私は感じた。

ああこれで、安心だ、
ではなく。
ああこれで、彼女はもう
囚われるのだなぁ、
と。

彼女の為した行為によってこうなることは分かり切っていた。
でもだから、
とてもとても、虚しかった。